ヨーロッパ・サマーセミナー · 17日 11月 2012
このときの11人の生徒たちは下は中学1年から、音高生、音大生までで、それぞれ日本で練習して準備したいくつかの曲を携えていました。このセミナーを実行するに当たり、娘がお世話になったことのあるミュンヘン音楽大学のチェロの先生に、私の生徒たちのためにどなたか良いピアノの先生を紹介してくださいませんか・・・・とお願いしてありました。しかしどんな先生が来てくださるのか・・・こればかりはレッスンが始まってみないとわかりません。 最初の数日間は屋根裏部屋も含めて皆の部屋割りを決めたり、買い出しに行ったり・・・そして時間を決めて練習したり・・・その中で生徒たちも私も、否応なしにまだ見ぬ先生によるレッスンへの期待が高まっていきました。 いよいよレッスン開始の日、その先生は青いフォルクスワーゲンのワンボックスカーにのってミュンヘンからやってきました。 庭のはるか向こうから背の高い金髪が揺れながら入り口に向かってきます。近づいてきたその姿はどことなく不思議でした。シャツは車と同じライトブルー、ズボンはデニムのようなベージュ色、そしてよく大工さんが仕事をするときに履いているような腿のあたりに小さなポケットがいくつかついている。 「なんかミュンヘン音楽大学の先生…というイメージからは少し違う感じだけど・・・」 これが私が初めて出会ったミヒャエル・シュナイト先生に持った印象でした。 直接部屋に入って見えると本当に背が高く、ドイツの木彫りのお人形を思わせるやや角張った(失礼!)しかしなかなか整った(!) 顔立ちに、がっしりとした体格、しかし口を開くと静かで優しい物腰で 「遠い日本からようこそ・・・2週間の間皆さんと一緒に勉強するのを楽しみにしていますよ。」と挨拶してくださり、生徒たちも少しずつ緊張がほぐれてレッスンが始まりました。 始まってみるとそのレッスンはシュナイト先生独特のアプローチがあって、とても興味深いものでした。 一度生徒が一曲をとうして弾き終わると、しばらく無言の静けさが・・・ 一瞬し~んとなる一同 先生は生徒にすぐに「こう弾きなさい。ああ弾きなさい。」とは言いません。 しばらく続いた静けさの後、おもむろに、しかも静かに、弾き手にまずたくさんの質問をします。 そしてその曲をまるで上空から俯瞰するように生徒にその構造について様々なことを気付かせていきます。 調の話や和音の話、リズムの話、形式やその曲がつくられた時代背景や作曲家のエピソードや、その他いろいろなことを交えながら…・ そうしていくうちに生徒自らが「ここでどのような音を出すべきなのか・・・ここをどういう気持ちをもってどう弾くべきなのか・・・」に気が付いてゆく・・・・という仕掛けです。 レッスンが進むにつれ、ポケット付きのズボンにやや不安を感じていた私もその楽しさにすっかり魅了されていきました。 (よくよく伺ってみると、先生はイタリアのヴィオッティ国際コンクールピアノ部門で優勝された方で、ヘンレー版の編纂にもかかわっておられる正真正銘のミュンヘン音楽大学の先生でした。) このレッスンを通じて2週間の間生徒たちがどんなにすばらしい経験をしたかはとてもここに書きつくすことはできません。 以来10年以上もの年月が経ってしまいましたが、これがきっかけになり、「ジュニア・サマー・ミュージックセミナー」と題して、ほぼ2年に一度シュナイト先生とのマスタークラスがが続いています。これまでに参加した生徒たちの顔ぶれも実に多彩になりました。 何人かの生徒たちは音楽大学を卒業後様々な国に留学しました。帰国した人もいるしまだ向こうで頑張って勉強している人もいます。 次回はシュナイト先生と昨年行ったスイスでのコースについて書きたいと思います。 種井