先日バトルが勃発しました!!
「なになに?バトルなんて穏やかならざる言葉!」
実は小4のAちゃん、毎年年末ごろになると学校の伴奏を引き受けてきます。そしてすごく嬉しそうに
「先生、今度こういう曲の伴奏をやることになったので見てほしいんですけど・・・」
Aちゃんは大人に対してもしっかり自分の意思を伝えることが出来る頭のいい女の子です。しかし何と言ってもまだ4年生。ピアノの練習に関しては今のところまだのんびりしていて、いつも「もう少し練習時間を増やせないかな~?」
と時々私にため息をつかせることもあります。
そもそも合唱の伴奏譜というものは、ある程度大きくなって、譜読みは勿論ですが、テクニックの面でも思ったとおりの表現が出来る人が弾くことを前提に書かれています。この曲はバイエル後半程度…とか、ブルグミュラー程度の人用…なんて言う伴奏楽譜は見たことがありません。(特にその目的で作られたものは別としてですが…)
作曲家もそのような事を考えて書いてはいません。ですから少なくともチェルニー30番くらいが終わっていないと、音を並べるだけでも大変なことになります。そして仮に並べられたとしても、それを合唱の伴奏として美しく弾きこなすことは又別です。
指使いも書かれていないことが多いし、大人の手でないとつかみきれない和音があったりするので、小さい人は難しいところは中の音をはずしてメロディーだけにしたり…など‥いろいろ足したり引いたりしながら弾くしかなくなるわけです。
実は昨年も一昨年もこの時期Aちゃんは同じように伴奏を引き受けてきました。
その嬉しそうな顔と、彼女の一生懸命さに何とか応援してあげてしまった私でしたが、前回の曲は中学生が弾いてもいいような曲でしたので、ガチガチの手で音を並べて弾くのが精いっぱいの中で、何とかそれらしく聞こえるように指導するのに苦労しました。
…でも嬉しそうに気持ちよさそうに弾く彼女の姿の中に、音楽が大好きな気持ちが聴こえてえてくることも事実!なのです。
勿論伴奏が悪いと言っているわけではありません。楽しい経験ですし勉強にもなること間違いなしですから、高学年になったら機会があれば大いにやらせてもらうと良いと思っています。
だからこそ!
「まず本業を頑張ろうよ~…伴奏はね、本物のピアノの力がつけば、どんどん弾けるようになってしまうの。でも今から、毎週毎週レッスンのほとんどの時間を使ってやることじゃあないの。」・・・と力説する私。
事実それで肝心のピアノのレッスンが何週間も手薄になってしまうのはどう考えても勿体ないことです。
「今年は他のお友達にやってもらいなさい。」というと、不満そうな顔をしている彼女。
「今年は先生はそんなものを見てあげている暇はないの。何故ならいまAちゃんのピアノはとても大事なところに差し掛かっていて、最近少しずつだけどAちゃんの中にやっと良い変化が出てき始めたところなの。ところが現に今日も伴奏の譜読みに夢中なあまり肝心のレッスンの宿題が10%もできてないじゃないの!」
ここで20分間のバトルが戦わされたのであります。
彼女は「初めて伴奏を弾いた時から楽しくて楽しくて、今の自分は伴奏が弾きたいためにピアノをやっているようなものなんです。」などと食い下がってくるのであります。
最後はついに私も折れ「じゃあどうしてもやりたいならまず本業のピアノをしっかり練習したあと、1時間でも2時間でも伴奏の譜読みを自分でしっかりやって、すべて弾けるようにして来なさい。そうしたら勿論アドヴァイスはしてあげます。でも手取り足取り譜読みまでお付き合いすることはできません。」と、いつになくかなり厳しい口調で言いました。
数日後お母さんに様子を聞くと、「昨日から熱を出しているのですが、その中でも先生に言われた通りまずピアノの練習をゆっくり丁寧にして、そのあと伴奏を一生懸命やっているようです。」とのこと。
「そうですか~。『頑張るね~!』…とうんとほめてあげてください。私も一人一人の生徒の頑張る力をどのように引き出したらよいか、いつも真剣に考えてレッスンに臨んでいるつもりです。今はAちゃんにとって試練の時かもしれませんがこれを乗り越えられたらきっと飛躍できると思います。」と言いました。
そして内心「Aちゃんにはきついこと言って心配していたけれど、すんなり伴奏をみてあげると言わずバトルをして良かった。」とおもう気持ちが湧き上がってきました。
次のレッスンの時、彼女はとても真剣な面持ちでピアノの課題を非常に集中力のある音で弾きはじめました。
「やれば出来るじゃない!! 頑張ったね。 今日はとてもいい音が出ているし、その調子で練習してくればどんどん上手になっちゃうよ。」褒める私。
そして数週間後「よ~し!じゃあピアノの方をよく頑張ったから今日は伴奏も見てあげる。どんな曲を弾くのかな?」
すると「スマイル・アゲインという曲です。もう音は暗譜しています。歌も歌った方がいいですか?」と彼女。
子供たちの間では有名な曲のようですが不覚にも(?)私にとっては初めて聞く曲でした。
「歌えるなら歌ってみて。」と答える私。
伴奏を弾きながら元気な声で歌いだす彼女の歌が2番にさしかかった時
♪~
やさしい言葉なんて
役に立たないことがあるよね
自分だけでたたかわなくちゃ
いけないときがあるよね
つらいこと 乗り越えて
いつか見えてくるものがあるよ
そしたらあなたは今より
きっとステキになってる
スマイルアゲイン
スマイルアゲイン♪~♪~
「あれ~? この歌詞、!! 何と先生がAちゃんに言いたかったことそのものだよ~。そこのところ、もう一回大きい声で歌ってみよう!」とおもわず叫んでしまった私でした。
それから何回めかのレッスンの後、伴奏もほとんど自力で乗り越えたAちゃんから「本番はとても気持ち良く弾けました。」との報告を受けました。
最近彼女のピアノが少しずつですが弾き方も音も数か月前と違ってきていることを感じています。
♪~
つらいこと 乗り越えて
いつかみえてくるものがあるよ
そしたらあなたは今より
きっとステキになってる
スマイルアゲイン
スマイルアゲイン
うつむかないで笑って見せて
どんなあなたもみんな好きだから♪~
私も、すべての子供たちに、そしてすべての生徒達に送りたいメッセージが詰まったこの歌が、とても好きになりました。
種井記
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